メンバーのセルフマネジメントにより運営され、進化し続ける組織が「ティール組織」です。近年の働き方改革やダイバーシティ経営が重視されるようになった影響で、注目を集めるようになりました。しかし具体的にどのような組織なのか、よく理解していない人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、ティール組織の概要や5つのフェーズ、必要とされる要素などを、事例を含めて紹介します。
ティール組織って?
ティール組織とは、社長や上司などが管理・干渉しなくても、個々の社員が意思決定することで、目的実現に向け成長し続ける組織のことです。
ティール組織は、2014年にフレデリック・ラルー氏が発表した著書「Reinventing Organizations」ではじめて紹介されました。著書のなかでラルー氏は、成果を挙げるための手法として正解だと思われている旧来のマネジメント手法が、実は組織に悪影響を与えている可能性があることを指摘しました。ラルー氏は、アメリカの思想家ケン・ウィルバー氏が提唱した「インテグラル理論」を踏襲し、組織を5つのフェーズ「レッド( Red )」「アンバー=琥珀 ( Amber )」「オレンジ ( Orange )」「グリーン ( Green )」「ティール=青緑 ( Teal )」に分けています。そして組織は段階を踏んで、ティール組織に進化すると説明しました。
つまりティールは組織の最終形態であり、ある日突然ティール組織が生まれるものではないのです。次章では、ティール組織までの各フェーズがどのようなものなのかを解説します。
ティール組織までの5段階のフェーズ
ティール組織に進化するまでに、組織は以下の5つのフェーズをたどります。
- 衝動型組織(レッド=Red)
- 順応型組織(アンバー=Amber)
- 達成型組織(オレンジ=Orange)
- 多元型組織(グリーン=Green)
- 進化型組織(ティール=Teal)
どのような組織なのか、順番に解説します。
❶衝動型組織(レッド=Red)
約1万年前に誕生したといわれる、組織のなかでもっとも原始的な形態がレッドです。
レッドは「オオカミの群れ」に例えられる衝動型組織とされ、ひとりの圧倒的支配者がリーダーとなり、力と恐怖でメンバーを服従させているのが特徴です。リーダーはメンバーを恐怖支配することで自身を守り、ほかのメンバーは支配者に服従することで、組織の一員としての安心感を得ています。現在でも、マフィアやギャングなどでレッド組織が見られます。
この段階の組織は、目の前の短期的な利益を重視するのが特徴です。中長期的な計画を立て、プロセスを踏んで進むのではなく、今日1日をどう生き抜くかを考えている段階であるため、短絡的・衝動的な行動が多くなります。レッドは内戦時や混乱の時代を生き抜く力強さはあるものの、支配者個人の力に依存するため再現性が低く、安定した環境では目標を達成するのは難しいとされています。
❷順応型組織(アンバー=Amber)
アンバーは、個人に支配される組織であったレッドから、権力や階級、制度などの概念が組み込まれ、「軍隊」と比喩される順応型組織へと進化した段階です。政府機関や軍隊などが、アンバーに該当します。
レッドでは特定の個人に支配力が集中していましたが、アンバーでは「支配側」によるトップダウン型の指揮系統が採用されるのが特徴です。組織はピラミッド型で統率され、メンバーには明確に役割が割り振られたうえで、上意下達で運営されます。メンバーは命令に従い、自らに与えられた役割を厳格に全うすることを求められます。
上下関係が明確であるアンバーでは、メンバーが組織運営に対して意見や提案をすることはほとんどありません。アンバーは支配者個人に依存せず、ルールに基づき秩序を保った組織運営ができるため、再現性が高く安定しています。その反面、変化への対応力や競争には弱いことがアンバーの特徴です。
❸達成型組織(オレンジ=Orange)
アンバーのヒエラルキーを維持しながらも、社会変化や競争に対応できるように進化したのが、達成型組織であるオレンジです。現在の日本において、もっともよく見られる組織がオレンジだと考えられています。
オレンジの大きな特徴は、成果を出したメンバーは支配側に評価される「実力主義」であることです。階級はあるものの、メンバーは個々に評価され、成果を挙げると昇級・昇進していきます。個々の才能を活かせることから、イノベーションが可能になるのがオレンジの特徴です。
一方オレンジでは、支配側は目標達成を重視することから、業務遂行を優先させる傾向があります。メンバーは組織の目標達成に向けて、機械的に働き続けなければなりません。数値に基づき評価されるため、常に生存競争にもさらされます。
その結果、メンバーは人間らしさを喪失しやすくなります。そういった負の側面から、オレンジは「機械」と比喩されているのです。
❹多元型組織(グリーン=Green)
「社長と従業員」といったヒエラルキーは残るものの、個人の価値観が尊重される組織へと進化したのが、多元型組織であるグリーンです。
グリーンでは、メンバーは「機械」としてではなく、本来の自分として主体性をもって行動できるのが特徴です。グリーンの組織のリーダーは、メンバーを支配するのではなく、メンバーが働きやすい環境を整えるのが仕事になります。風通しがよく、メンバーにとって居心地がよい組織であることから、グリーンは「家族」と比喩されます。
現場のほうがよりよい判断ができると上層部から信頼されるため、組織の意思決定はボトムアップ型でなされるることも、グリーンの特徴です。協働や協力を理念とするグリーンではコンセンサスが重視され、すべてのメンバーが働きやすい環境を目指します。
一方、コンセンサスを重視するあまり、意思決定が遅れてビジネスチャンスを逃してしまうことがあるのがグリーンのデメリットです。また個々が尊重されるとはいえヒエラルキーは残っており、最終的な決定権はマネジメント側が握ります。
❺進化型組織(ティール=Teal)
グリーンからさらに進化したのがティール組織です。ティール組織には、これまでの組織のような権力を握る個人は存在せず、組織の目標達成に向けてメンバーが意思決定を下すのが特徴です。ヒエラルキーは解消され、全員がフラットな関係となり、「経営層」や「上司」「部下」といった役割や概念はありません。
ティール組織で現場での意思決定が実現できるのは、個々のメンバーが組織の目的を明確に理解しているためだとされています。組織の目的実現に向けて課題解決することのほうが、メンバーのコンセンサスを取るよりも重要と考えるティール組織では、意思決定に時間をかけることがありません。
ティール組織では、組織はメンバー全員のものであり、「組織の社会的目的」が「自分自身の目的」と一致しています。メンバー同士が互いに信頼・共鳴し、一体となって組織を運営していくことから、ティール組織はそれ自体がひとつの「生命体」と比喩されているのです。
ティール組織の3つの要素
ティールへと進化した組織には、以下の3つの要素があると言われています。
- セルフマネジメント
- ホールネス
- 進化する目的
順番に説明します
●セルフマネジメント
ティール組織は、セルフマネジメントがおこなわれているのが特徴です。セルフマネジメントは「自主経営」と訳され、組織のすべてのメンバーが、意思決定に関する権限と責任を有していることを意味します。
ティール組織には階級がないため、全員がフラットな立ち位置にいるのが特徴です。そのため組織の情報はメンバー全員が共有し、目標に向けて必要と思うことは自らが意思決定して進行します。「総務」「経理」といった固定化された部門もないため、メンバーは自分に必要な業務は自分でおこないます。どのようなプロジェクトをおこなうかを決めるのも、それに必要なものを購入するのにも、だれの許可もいりません。
ただしティール組織には、「助言プロセス」と呼ばれるルールがあり、なにか決定を下すときには、その決定に影響を受ける人と専門家に助言を求める必要があります。
助言プロセスを経たあと、助言に従うかどうかはメンバーの自由です。しかし助言プロセスがあることで、メンバーは自分がおこなおうとしていることが、本当に組織のためになるのかをよく考えたうえで、判断するようになるのです。
●ホールネス
ホールネスは「全体性」を意味し、組織のなかでありのままの自分でいるために、互いの多様性を認めあうことを指します。
従来の組織では、メンバーは「評価される立場」であるため、自分をよりよく見せてよい評価を受けようとする傾向があります。しかしそれでは本来持っている個性や能力を発揮できません。ティール組織では、組織が多様性を重視し、「あなたのままでいい」と心理的安全性を確保することで、メンバーの力を最大限に引き出すのです。
●進化する目的
ティール組織では、目的は「常に変化するもの」であることが特徴です。
メンバーが常に「この組織の存在意義、私の使命はなんなのか」を自身に問い、環境や状況にあわせて変化させ、追求し続けます。従来の組織のように「市場競争に勝つ」といった目標はないため、「競合」という概念もありません。同じ市場にいる他社でも、目的が同じであれば見方と捉え、協力するというのがティール組織の考え方です。
社長や経営層がいないティール組織では、常にメンバー全員が、これから組織がどう向かっていくのがよいのかを考え進化し続けているのです。
ティール組織の企業例
社長も上司も存在しない、メンバー全員で運営するティール組織。実際にティール組織に進化した、あるいは進化を目指している企業とその取り組みを紹介します。
株式会社フリープラス
インバウンド向けの旅行手配をおこなう株式会社フリープラスでは、社長を含めた全メンバーの序列を廃止し、ティール組織への移行。事業ごとの「本部」や「部」をなくし、「訪日旅行」「ホテルマネジメント」などサークル単位で事業をおこなっています。
メンバーは自由にサークルに所属し、どのような業務をおこなうかも自分で決めます。「助言ルール」を採用し、決定の前に助言を求めさえすれば、新規事業を立ち上げることも可能です。
ティール組織に移行した結果、メンバーに経営者意識が芽生えてコスト増につながる残業が減った、稟議がなくなり意思決定が早くなったなど、さまざまな効果を得られています。
【参考】特集「ティール組織」によるマネジメント改革
株式会社キャスター
株式会社キャスターは、オンラインアシスタントサービスを提供している企業です。株式会社キャスターでは、創業当時から常時リモートワークを導入。自宅やコワーキングスペース、旅行先など、どこで働いてもよいとしています。メンバーは窓口となる「フロント」と、作業をおこなう「キャスト」とに分かれますが、役割であり役職ではないので上下関係はありません。
現在700名ほどのキャストが常時リモートで働き、受託した仕事内容に応じて臨機応変にチームを組んで対応。自在に変化しながら進化する組織として、成長を続けています。
【参考】特集「ティール組織」によるマネジメント改革
株式会社ネットプロテクションズ
BNPL決済サービスを提供する式会社ネットプロテクションズは、ティール組織による社員の自己実現と、社会発展の両立を目指しています。
ティール組織を実現するために、「報酬の適正分配」ではなく「相互の成長支援」に注目した人事評価制度「Natura」を創設。社員間の競争意識をなくし、組織内の心理的安全性を確保することが目的です。
Natura導入で役職を撤廃したことから上下関係がなくなり、社員のだれもが立場や役職にとらわれることなく、自律的に事業戦略・推進に取り組めるようになりました。
【参考】人事評価制度「Natura」
ティール組織化する際の懸念点
組織の最終形態ともされるティール組織に変化するのには、以下のような懸念点もあります。
セルフマネジメントの能力が求められる
ティール組織では、メンバーがセルフマネジメントすることで運営されています。そのためメンバーには、自身で意思決定し、組織を進化させていく能力が求められます。セルフマネジメントできるメンバーばかりであれば問題ありませんが、できないメンバーが増えると組織全体の生産性が下がり、運営が成り立たなくなる可能性があるでしょう。
プロジェクト管理がしにくい
ティール組織は全員がフラットな関係で「上司」がいないため、だれが、どのようなプロジェクトを、どのように進めているのかを把握できません。そのため問題が発生したときに、適切な判断やフォローができない可能性があるのがデメリットです。
メンバーが自律した活動をするにしても、稼働時間や売上状況などは、組織全体で共有できる仕組み作りが必要です。
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リスク管理が困難
ティール組織はセルフマネジメントにより、個々のメンバーの裁量でプロジェクトに取り組みます。そのため収益性が低いようなプロジェクトであっても、メンバーの興味関心が高ければ、資金を投じてしまう可能性があります。
そのようなときには、組織の存在目的をメンバーで話し合うことが大切です。リスクを未然に防ぐのはもちろん、リスクが発生したときにどのように対処するかを決めておく必要もあるでしょう。
リスクマネジメントとはなにか?必要性やプロセスを徹底解説
プロジェクト管理やリスク対策には「SmartDB」
前述したようにティール型組織では、全員がフラットな関係で全ての事柄が進行していくため、プロジェクトの進捗管理やリスク管理が困難になります。 そのような課題には、情報を適切に管理し共有し合えるツールを利用することが有効です。
ドリーム・アーツが提供する「SmartDB」は、非常に柔軟なワークフロー機能とWebデータベース機能を持ち合わせた大企業向け業務デジタル化クラウドです。ノーコードで開発でき、かつ細やかで複雑な業務にも対応可能なため、業務の実態に則した業務アプリを構築いただけます。
具体的には次のようなメリットがあります。
- 入力フォームは柔軟に設計でき、独自の管理項目も設定可能
- 情報はブロック単位で閲覧や編集権限を制御することができるため、適切な情報共有ができる
- 添付ファイルのデータも含め検索でき、必要な情報がすぐに見つかる
- 編集履歴も記録されるため、誤って更新してしまった際なども取り戻し可能
- チーム単位の業務から組織全体の業務までカバーでき、全社のプラットフォームとして展開できる
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まとめ
ティール組織とは、従来のヒエラルキーを主体とした組織から進化し、メンバーがフラットな関係で、存在目標の実現に向けて進んでいく組織です。メンバーにはセルフマネジメント能力が求められるため、自律して主体的・能動的なメンバーが多ければ円滑に運営できます。ただしそうでなければ生産性が下がり、組織として成り立たず失敗する可能性がある点には注意が必要です。
ティール組織では、組織のメンバーが自律的に業務を改善し、生産性の向上をがどのような取り組みをおこなっているのかの把握が困難なのも課題です。組織全体の動きを可視化できるツールを導入し、メンバーで共有するとよいでしょう。
この記事の執筆者:加藤(マーケティング本部)
2017年に新卒でドリーム・アーツに入社。営業部門やインサイドセールスチームでの業務を経て、現在はマーケティング部門にてコンテンツの作成に従事。物理的な声の大きさだけが取り柄だと思っていますが、文章という形でみなさんのお役に立てる情報をお届けできるよう頑張ります!